何も知らない人ならマッドマックスの”世紀末装備品”だと思ってしまうであろうスパイクソールのガチンコロガーブーツ。
(このまま里へ降りてきても森の中へ追い返されてしまうでしょう)
今回はオリジナルのスタイルを踏襲しつつ普段履きできるようソールを貼り替えました。
とはいえ古典的なネイルダウンでは使い勝手や履き心地に難があるので、中底からやり直しブレイクラピド製法に仕様変更しています。
今回はリペアというよりレストアに近い領域ですね。
なんといってもまずは解体。
あとで数えたところによるとスパイクとネイルは両足で約540本も使われていました。
(内部にもぶっとい角釘)
通常のソールならヒールを外してダシ縫いを切ってアウトソールを剥がします。
今回はそのスタートラインに立つまでに鉄鋲を全て抜かなくてはなりません。
(よく見るとスパイクにも形状が様々)
(まずは外周の丸頭鋲を抜く)
(つ、疲れるぜ……)
片足あたり約270本抜くのに1時間はかかった……。単純計算で1分間で4.5本。
これを多いと思うか少ないと思うかわかりませんがスパイクの頭がとにかく掴みにくく、ドライバーとニッパーを駆使してなんとかぶっこぬきました。
北極に浮かぶ氷山のように、露出している頭以上にソールに食い込んでいる根っこの方がよほど逞しい。
そりゃ簡単に抜けんわけです。
(やっとミッドソールに到達)
(中底のつりこみは非常にシンプル)
(これらのタックス釘を抜いて中底を外していく)
(レザーシャンクも健在)
その後は順当にミッドソール→インソールとバラしていきます。
部材それぞれが素晴らしい物性で、よもや80年経過しているとは驚きです。
しなやかかつ強靭な繊維の集合体で、バサついたりブクつくような部分は皆無。
原皮の繊維密度もさることながら、タンニンの食いつきもかなり良好なのだと思います。
交換するのが惜しいくらいでした。
ここでようやく折り返し地点。
次は構築のパートに入ります。
(屈曲性と吸湿性に優れたレザーショルダーを使用)
(つま先パートは袋ベロが長すぎてミシンが入らないためタックスで固定します)
インソールとミッドソールの形状をトレースしマッケイ縫いで固定します。
その後レザーソールを貼ってウェルト役のミッドソールと縫合。
今後はアウトソールの貼り替えだけでリソールも可能です。
積み上げはロガーヒールに。
昔のロガーはハチマキの張り出しが狭くカーブがゆるいものをよく見かけます。
今回もアッパー腰革から連続するようなシルエットを意識しました。
そしてソールの仕上げ。
ワークブーツといえば荒々しいコバの仕上げが一般的ですが、このブーツが本来持っていたポテンシャルを考えればマシン仕上げでは物足りません。
環境規制が厳しくなった現代の底材であっても、なるたけ堅牢度を上げるために”仕立て”で物性を向上させたつもりです。
まずハンマリングとスリッカーで革繊維を圧縮しベースから密度を高めます。
さらに溶かした蝋を含浸させ鍛えた繊維をガッチリ支えます。
繊維を締め込んだ副次的効果で艶が出てますが、履き込んで表面の蝋膜が剥がれた時こそ真価を発揮するはずです。
毛羽立つような荒びれではなく、どこかとろみのあるような、まさしく流木の如き風合いが理想です。
ハードな着用環境かつ手厚いメンテナンスを受けられないワークブーツこそ、たとえ高コストになってもスペックを最大限に高めた仕立てが必要になる場合もあるのです。
「ハナからラバーソールでいいじゃん」て方が大多数ではあるんですが、革底のワークブーツが好きなロマン派のために古典的な手法も駆使しています。
大変でしたが楽しいご依頼でした。
貴重なペアを預けてくださりありがとうございました。
YUMA.
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